『 アツさ対策 』



「あつい〜、あついよ〜〜」


夏休みに出された大量の課題を消化するため、学校の補習のあと、私はなのはの部屋を訪れたのだが。
先ほどから、課題を順調に消化しているのは私のみ。

この部屋の主の彼女は、といえば、


「なのは、一ついいこと教えてあげようか」
「うん〜〜。おしえて〜〜」


ダラけにダラけた返事を返す。


「私から離れてくれたら、だいぶ涼しくなると思うよ?」


そう。
なのはは課題を始めてから間もなくすると、暑い、と言い出し床に寝転んだ。
最初のうちは私も気を遣ってなのはに声をかけていたのだが、なのはのやる気が戻る気配がないので、放っておくことにしたのだ。

すると、それが不満だったのか。

今度は正座を崩して座っていた私の腰に両腕を巻きつけるように、寝転んだまま抱きついてきた。
二人きりの部屋で抱きつかれた私の心中は、穏やかであるはずもない。

しかし、どんな時でも冷静でかつ的確な判断や行動を求められる執務官たるもの。
ここで耐えずになんとする。

抱きつかれた後も、黙々と手を動かし続けた私も、流石に自分のお腹の辺りで、暑い、を連発されてしまうと、放っておくわけにもいかなくなった。


「だって、フェイトちゃん、自分だけ涼しそうな顔して、ズルいよ」
「涼しそうな顔なんかしてないよ。私だって十分暑いよ?」
「いや、してる。その顔は絶対涼しい顔なの」


下から上目遣いでそう決め付けられて。

はっきりいって言いがかりだ、と思う。
だが、今のなのはにそう言った所で、素直に納得するとは思えない。

さて、どうしたものか。

このまま抱きつかれているのは、精神衛生上とてもよろしくないばかりか、私だって本当に暑いのだ。


「でも、なのはだって、そんな風にしてたら暑いでしょ?」
「もちろん、暑いよ!」


当然じゃない、と逆ギレされてしまって、私は理不尽な仕打ちに少し悲しくなった。


「だったら」
「ヤだ。私ばっかり暑いのなんて不公平だもん。少しはフェイトちゃんも暑くなっちゃえ〜」
「なっちゃえ〜、って」


なのはの小さな子供のような勝手な言い草に、思わず笑いが零れる。

かわいいなぁ……。

普段、年齢以上に大人びたところのあるなのはのこんな姿はとても貴重で。
甘えてくれること自体が嬉しくて、つい顔を緩めてしまう。
アリサにはよく甘すぎる、と怒られてしまうのだけれど。


「だから、さっきクーラーつけていいよ、って言ったのに」
「フェイトちゃん、クーラー苦手でしょ。だからつけない」


なのはの言葉の通り、私は冷房が苦手で、授業中もなるべくカーディガンを着るようにしていた。
しかも運悪く、現在、扇風機は故障中。

でも、このままでいるわけにもいかないし……。

なのはの額にはうっすら、と言えないほどの汗が浮かんでいる。


「しょうがないな。なのはが課題しないなら、私もう帰るよ?」
「…………」


さて、どうする?と笑顔を向けると、しばらく頬をふくらませたまま下から睨んでいたなのはだったが。
渋々と私の腰に絡めていた両腕を外し、元の場所に座りなおした。

私は、ようやくなのはの体が離れたことに、安堵と未練が入り混じったため息を吐く。

それからしばらくは、真面目に課題をこなすなのはがいて。
私も気を取り直して自分のテキストに目を落とした。




パタパタパタパタ  

何やら扇ぐ音と、ふぅ〜、となのはが息を吐く音を耳にして、休憩をするか尋ねるため、なのはへと視線を向ける。

うわっっっ!


「?!!な、なのはっ」
「……ん〜?」


顔はおろか、首筋まで一気に赤く染まった私が目にしている光景は。

制服のブラウスのボタンを上から外し、胸元を大きく開けて下敷きで風を送るなのはの姿だった。


「あの、そのカッコはあんまり……。し、下着、見えちゃうよ?」


見えちゃうよ、ではなく、本当はすでにチラチラとピンク色の下着が胸元から見え隠れしている。
私だって、そんな覗きのようなことをしてまで見るつもりもない。
しかし、見ないように、とすればするほど、意識が、視線がそこに向かってしまうのは、人として仕方のないことだ……と思う。

そんな私の苦悩なんて露ほど知らず、なのはは扇ぎ続けた。


「これ、結構涼しいんだよ。フェイトちゃんしかいないから、いいかなって」


平然と言ってのけるなのはに、私は苦笑い。

逆に、私しかいないから問題なんだけどなぁ。

そんな事を口に出して言えるはずもなく。
修行……修行……と、心の中で何度か繰り返し。
また、目の前のテキストに思考を戻す。

それから何度か煩悩に負けそうになりながらも、無事、今日の修行……もとい、課題を終了することが出来た。


  




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