『 Hand 』



    あれ?

ふと、目を覚ましたなのはは、まだ覚醒しきれない頭で、違和感の正体を探る。
自分のお腹の辺りに、ヴィヴィオが抱きついて眠っているのは、最初と同じ。

違ったのは。

後頭部のすぐそばから聞こえるもう一人の寝息。


フェイトちゃん……。


横向きに、ヴィヴィオを守るように寝ているなのはを更に後ろから包み込むように、フェイトが眠っていたのだ。
なのはの頭の下にはフェイトの右腕が通されていて、腕枕までされていた。

フェイトは任務のため2週間ほど出張していて、確か一昨日の通信では、明日にならないと戻れない、と言っていたのだけれど。
なんにせよ、帰宅が延びるのは不満だが、早まる事については大歓迎だ。

……ただ、そのためにフェイトが無茶をしていなければ、という条件つきではある。

枕もとの時計を見ると、もうすぐ夜が明ける頃。
きっとフェイトはなのはが熟睡していた真夜中に帰ってきたのだろう。

いつもヴィヴィオが怖がらないように、夜はフットライトを点けたままにしているので、部屋の明かりなしでも特に問題はなかっただろうし。


これは、無条件に大歓迎、ってわけにはいかないかな。


フェイトが仕事を片付けるために遅くまで無理をする姿が容易に想像出来て、なのははため息をついた。

でも。それでも。

こうやって、そばで体温を感じていられることの喜びは何ものにもかえがたくて。
自然に頬が緩む。
軽く上体を捻って後ろを振り向くと、安心しきった表情で寝息をたてる愛しい人。

その顔を見て、なのはは以前言っていたフェイトの言葉を思い出す。


「出張とか長期任務とかもう慣れっこだし、全然自分では自覚ないんだけど。やっぱり家のベッドはなんだか落ち着くね。艦の部屋もいつも同じなんだけどなぁ」


なんて、不思議そうに言うものだから。


「当たり前だよ、ここはフェイトちゃんの家なんだから」


呆れたようになのはが笑うと、フェイトは、うん、そっか、と何度か頷いて。


「私の、私となのはとヴィヴィオの、家だもんね」


噛み締めるように言っていた。

ちょうど今日は早朝訓練もないので、ヴィヴィオの支度の時間に合わせて起きればいい。
もう少し、眠ろうか。


「おかえりなさい」


小さく呟いてフェイトの頬に口付けを一つ落とすと、再びなのははフェイトの腕の中に納まるべく、態勢を元に戻す。

すると、腕枕をしているフェイトの右の掌が視界に入って、なんとなく、起こさないようにそっと触れてみる。

なのはよりやや大きい手の平、色白で細くて長くてキレイな指。
子供の頃手を握ったとき、少し温度の低いフェイトの手に、手が冷たい人は心が温かい、というのは本当なのだと実感した。

差し伸べてくれるときの優しい手。
握り返してくれるときの力強い手。

……そして、自分に触れて愛してくれるときの熱く愛しい手。


あ、まずい。


なのはは余計なことを考えてしまったことを後悔するが、すでに遅し。
身体がフェイトに触れられたときの記憶を思い出してしまった。

ヴィヴィオもいるため、なかなかそういう機会がなく、もう1ヶ月が過ぎる。

もちろんそればかりを求めているわけではないけど。
全然求めていないわけでもないのだ。

なのはは火照った身体と思考を冷まそうと、瞳を閉じてしばらく仕事のことを考えた。

が、しかし。

後ろから抱きしめられたこの状態では、瞳を閉じたら更に意識が向いてしまって。
諦めて瞳を開けると、そこには誘うようにフェイトの右手があった。


よく寝てたし、いつも起こしても起きないし……バレない、よね。


なのはは静かに両手でフェイトの右手を引き寄せると、愛おし気に頬をすり寄せる。

数えることきっかり5秒。

フェイトの手に意識が戻らないのを確認すると、なのはは次の行動に移った。

手の甲に軽いキスをして、今度は手の平。それから、指先。
唇を触れさせるだけの口付けを余すところなく繰り返す。
そして、軽い口付けを終えると、唇で表面をなぞりながら、時々舌を遊ばせて、また全体を愛撫する。

そうすると、もう、抑えられなくなった。


「フェイト……ちゃん……」


小さな小さな声で名前を呟くと、なのはは目を閉じる。

まず、親指。
フェイトの右手の親指を咥えて、口の中で舌を絡める。丁寧に全体を舌で確かめた後、口の中から開放して、舌だけで舐め上げたり、軽く歯を立てたり、思うままに味わう。

次は、人差し指。
同じように指全体を咥え唾液で濡らして、舌でその唾液を拭うように舐め取り。フェイトと繋がるときの大事な一部だ思うと、愛しくて欲しくて堪らなくなる。
愛されるときのように、喉の奥まで指を招きいれ、それから引き出す。


……はぁ……はぁ……。


その動作を何度か反復していると、まるで本当にフェイトに抱かれているような気がしてきて、なのはの呼吸は徐々に乱れ始める。

このままだと、ヴィヴィオやフェイトに気づかれてしまうかもしれない、と理性はストップをかけるが、魔法の制御と違って、なのはの欲情はもうキャンセルを受け付けなかった。



  




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