【 かみなりびより 】



『関東地方上空を発達した雨雲が覆っており、一部では雷を伴った強い雨が――』

アナウンサーのお姉さんの言葉通り、今日は朝から酷いお天気。
窓の外に目を向けると、すごい雨と風でいつもの景色が霞んで見える。まるで夜みたいに真っ暗な世界を時々雷が明るく照らして。そしてきまってその次の瞬間には、ひだまり荘が震えるくらい大きな音が鳴り響く。

雷は特別苦手ってわけじゃないけどさすがにこれだけ大きな音が聞こえるとちょっと怖い……空がピカッて光る度に身構えてちゃって、でも音がしたらやっぱりびっくりして。
ひだまり荘に落ちてきたらどうしよう、なんて心配になる。

「うぅ―…」
「ゆのっち―!!」
「わぁっ!?」

ドアがバタンと開いて宮ちゃんが入ってきた。はあ〜、音に敏感になってたからびっくりしちゃったよ……

「ん?どったの?」
「な、なんでもない……宮ちゃんこそどうしたの?」
「こう天気が悪いと雨漏りが酷くてね―。バケツがすぐいっぱいになって一人じゃ替えるの大変だから手伝っていただけないかと」
そっか、宮ちゃんの部屋、雨漏りするんだもんね。
「いいよ。あっ、うちにある洗面器とか持っていった方がいいよね」
「おー、助かる―」

宮ちゃんの部屋に入ると、四カ所にバケツやお鍋が置いてあった。
「うわ、すごいぽたぽたしてる……」
水の落ちる音に耳を澄ませていたら、また雷の大きな音が鳴り響いた。
「あれ?ゆの雷苦手?」
「そうじゃないんだけど、あんまりおっきい音だからびっくりしちゃって」
「あ―。確かに凄いよね―」
「わっ、また光った」

ゴロゴロゴロ

「ジャジャジャジャーン!!」
「ぅわぁっ!?な、なに宮ちゃん!?」
「ジャジャジャ、ジャーン!!」

いきなり雷の音を掻き消すくらいの大声で歌い出した宮ちゃん。し、心臓が飛び出るかと思った......

「雷の音ってでっかいシンバルとか太鼓に似てるから、オーケストラごっこしてみた」
「あははっ、そう言われれば似てるかも。私もやっていい?」
「じゃあゆのっちはバイオリン担当ね」
「バイオリンっ!?」

じゃあさっきの宮ちゃんのは何の楽器だったんだろう……
バイオリンの音を出すのは無理だったけど、宮ちゃんと私で一緒に歌って、そこに雷と水の落ちる音とが混ざって、まるでおっきな楽団で演奏会をしてる気分。有名なクラシックの音楽だけじゃなくてやまぶきの校歌とかも演奏して、すごく楽しくて。
バケツが水でいっぱいになってることを忘れかけてて慌てて捨てに行ったりとかもして。

気がつけばあっという間に一時間以上経っていた。
「おっ。雷の音、あんまり聞こえなくなった?」
「ほんとだ。風もちょっと弱まったみたい」
「これなら夕方には綺麗な夕焼けが見えるかもしれないね―」

そう言えば途中から、雷の音怖くなくなったな……

「宮ちゃん、ありがとう」
「へっ?」
「ううん、なんでもないの。でもありがと」

宮ちゃんは頭の上にハテナを浮かべたまんまだけど、でも宮ちゃんのおかげだから、ありがとうって言いたかったの。
もうすぐお昼だから、宮ちゃんの分もご飯作ってあげよう。その後は何をしようかな。雨が止むまでもうしばらくお出かけするのは無理そうだけど、宮ちゃんと一緒なら今日も楽しい一日になるって、そんな気がする。


  




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