第二話  キミを知る

  〜 なのは 〜



「おはようー」
「あ、なのはちゃん。おはよう」
「おはよ」
「おはよーさん」


教室に入ると、親友たちと挨拶を交わす。
仲良し四人組の中では、どうやら私が最後だったようだ。


「席はとりあえず出席番号順らしいわよ」


アリサちゃんが指差した黒板には、席表が貼られていて、生徒が数人囲んでいるのが見えた。


「えーと、出席番号って変わらないよね?」
「うん。同じ」


端の机から、一、二、三……と、順々に数えていたら、すずかちゃんが、なのはちゃんはそこだよ、と教えてくれたので、礼を言ってカバンを置きに行く。


「なんや、それにしても、三年生の始業式だっていうのに、新鮮味に欠けるなぁ」


はやてちゃんのため息に、アリサちゃんが肩を竦めて見せる。


「仕方ないわよ。二年から完全に持ち上がりなんだもの。担任だって一緒なんだから」
「変わったのは、教室と靴箱だけか」
「でも、私はまたみんなと一緒のクラスで嬉しいな」
「うん。私もそう思う」


私がすずかちゃんに賛同すると、他の二人も、まぁね、と笑顔になった。




私が通う聖祥大付属高校は、二年の初めにコースが分かれるため、三年生はそのままクラス替えなし。
ちなみにこのクラスは今のところ皆、付属の大学に進学を希望する人たちで、私もその中の一人。

それから、春休み中の宿題や遊び、昨日のテレビの話など尽きることなく会話が弾む。

いつもならそれなりに会話に参加する私も、今日はやや上の空。


フェイトちゃん、大丈夫かな……。


大丈夫じゃない、という状況が何を指すのかはよくわからなかったけれど、漠然とそう思う。

時々そっと様子を窺うと、物珍しげにキョロキョロしていた。
通学中もあまり私の邪魔にならないように控えめに色々な物に興味を示していたっけ。
どうやら、フェイトちゃんのいたところと、周囲の様子はだいぶ違っているらしい。

意識をフェイトちゃんから戻すと、私をじっと見ていたはやてちゃんと視線がかち合う。


「なに?はやてちゃん」
「ん?……いや、なんも」


何だろう。
朝、急いでたから、前髪跳ねてるかな。

何でもないと言われても、さっきの視線はそうは思えなかったので、手で前髪を気にしつつ、また会話に加わる。

ガラガラ。


「おーい。着席ー。出席とるぞ」


チャイムと共に担任の先生が教室に入ってきたので、ぞろぞろと席に着く私たち生徒。

]私の席は後ろから二番目。
フェイトちゃんは教室の後方に備え付けのロッカーにもたれるようにして立っていた。
これが前方の席だったら、きっとフェイトちゃん、居場所に困っていただろう。

先生が出席を取り終えて、今日の予定を説明し始めたとき、ふと視線を感じて。
その方向を見ると、はやてちゃんが笑顔で小さく手を振っていた。


「??」


よく分からないけど、私も微笑んで手を振り返す。
今日のはやてちゃん、不思議だなぁ。


「それじゃ、これから始業式だから、全員講堂に移動しろー」


はーーーい。

先生の指示で生徒達はドヤドヤと教室を出て行く。
私もアリサちゃんに声をかけられ、一緒に連れ立って講堂へと向かった。




初日の今日は、始業式とHRと掃除のみ。
HRは委員や色々決め事があって時間がかかったけれど、基本的にクラス替えもなくよく見知ってる顔ぶれでの話し合いのため、特に問題もなく決められていく。
後は掃除して下校するだけ。私は部活も入っていないので、お昼すぎには家に帰れるだろう。

早く帰ってフェイトちゃんに聞きたいこと、聞かなきゃならないことがたくさんある。


「なぁなぁ、なのはちゃん」


机を運んでいたら、はやてちゃんに声をかけられた。


「今日、お昼食べたら、なのはちゃんの家に遊びに行ってもええかなぁ?」
「え?今日?今日は、ちょっと……」


はやてちゃんには申し訳ないけれど、取り急ぎやることが……。


「都合悪い?それは朝から同伴出勤のキンパツねーさんの件?」


耳に手を当てられ、コッソリ囁かれた。

ドーハン……??
言葉の意味が分からず、しばらく考えてから。


「!!……は、はやてちゃん、見え……」
「ほらほら、大きな声出さんと。もし、あたしは何も知らん方がええなら、そうするよ〜」
「え、えーと……」


チラッとフェイトちゃんに視線を送ったはやてちゃんと、壁際に立つフェイトちゃんを交互に見比べながら考える。
フェイトちゃんはあんまり他の人に知られたくないんだろうか?
でも、私だけじゃ力になれないかもしれないし。

しかも、はやてちゃんはフェイトちゃんが見えていても、そんなに驚いていないみたいだから、もしかして……。


「うん、遊びに来て。相談したいこともあるし」


そのときの私は縋るような瞳をしていたらしい。
はやてちゃんは困ったように笑うと、そんなに期待せんといて、と私に釘をさすように言った。




駅で他の三人と別れて、周囲に人気が少なくなってから、ようやく落ち着いてフェイトちゃんと会話を交わす。


「ごめんね、学校にいる間、つまらなくなかった?」


心配そうな私に、フェイトちゃんは穏やかに微笑んで。


「全然。なのはが学校で友達と楽しそうで、良かったよ」
「…………」


トクン。
なぜだろう。今日初対面なはずなのに、しかもフェイトちゃんは普通の人じゃないのに。

私のことを見る眼差しは、とても暖かくて、優しい。
そして、私はその眼差しにすごく安心感と愛しさを感じてしまう。


私、きっとこの人のこと、知ってる……。


私が何も言わずにジッと見つめていたら、フェイトちゃんに怪訝そうな顔をされてしまい。


「なに?」
「え?……あ、ああ、ごめん。何でもないの。あの、今日これから友達が遊びに来るんだけど、いいかな?」
「うん。私は、別に」
「なんかね、多分。その子、フェイトちゃんのこと、見えてる」
「っ!!……そっか」


私以外、初めて自分のことを認識出来る存在がいたことに、やや緊張の面持ちでフェイトちゃんは頷いてみせた。


「大丈夫だよ。すごく頼りになる私の親友だから。きっと色々助けてくれると思うよ」


緊張を解そうと明るく言ってみる。
すると、フェイトちゃんにも伝わったみたい。


「うん。ありがとう」


お礼と笑顔をくれた。



   




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