『 あなたにおちる 』



「なぁなぁ!とうとう、なのはちゃんがフェイトちゃん落としたってホンマ?!」


晴れた日の昼休み。
いつもの5人で屋上にてお弁当。

なのは、フェイト、アリサの3人とは別のクラスであるはやてとすずかは、興味津々で今日の話題のメーンディッシュである二人に飛びつく。


「にゃははは……」
「あははは……」
「何よ、その目は。別にウソはついてないわよ」


当の本人たちは、力のない笑いを浮かべて、はやてとすずかに情報を流したアリサのことを恨めしそうに見やる。
アリサはその視線を受けても、まったく怯まず、それどころか楽しんでいる雰囲気さえある。


「それにしても、やっとって感じやねぇ。あんだけ公然とイチャコラしとるくせに、お互いあと一歩がなかったもんなぁ」
「ねぇ、なのはちゃんもフェイトちゃんも、すり傷だらけだけど、どうかしたの?」


うんうん、と一人勝手に頷いているはやてをよそに、すずかが今日二人を一目見たときから気になっていた疑問を投げかける。

二人は気まずそうに顔を見合わせた後、ほら、なのは!、えぇ、フェイトちゃんが、とお互い譲り始めたので、イライラしたアリサが面倒だ、とばかりに横から口を出した。


「だから!なのはが!フェイトを!落としたのよっっ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


昨日の放課後、なのはの家に寄ってしばらく雑談したあと、帰るフェイトをなのはが自転車で送っていくことになった。

自転車の二人乗りは違反だとわかっていたけれど、ほんのちょっとだから、というお巡りさんには通用しない言い訳のもと、二人乗りを決行した。
もちろん、なのは運転の二人乗りは、運動神経などの問題上危険が大きかったので、フェイトがサドルに腰掛け。
なのはは、後輪の軸に足を乗せて立ち、フェイトの肩に両手を置くスタイル。


「じゃあ、行くよ」
「うん、フェイトちゃん」


フェイトは背中に感じるなのはの温もりに、なのははフェイトの髪の毛から香る甘い匂いに意識を奪われつつ、火照る頬をお互いに気づかれないように注意を払う。

第三者の目からは両想いであるのは明白なのに、なのはもフェイトも自分の気持ちに目を向けることに精一杯で、相手の想いには気づかない。
アリサやはやてに呆れたようなため息を吐かれる意味も分からない。

ただ、二人きりで過ごす時間はいつも甘酸っぱく、ドキドキして照れ臭くて、でも、とても幸せな空間に包まれていた。

そんな時間が終わるのを惜しんだ結果の、二人乗り。
当然、二人の間に流れる空気は甘い甘いピンク色。

走り出した自転車が切る風が、火照った二人の頬を撫でていく。


「なのは、危ないからしっかり掴まっててね」


少し顔を斜め上に傾げながら、後ろのなのはに声をかけると。


「うん!」


何だかとても嬉しそうななのはの弾んだ返事とともに、肩に置いてあった両手が、フェイトの首に回され、後ろから抱きしめられるような形になった。

フェイトは先ほどまでの背中の温もりだけでなく、肩の辺りに感じる他の部分とは明らかに違う感触に胸の鼓動が高鳴りドギマギしてしまうが、ちょっとした下心もあり、敢えて触れないことにした。
なのはもフェイトにくっつくことが出来る大義名分が立ち、ここぞとばかりに密着するために両腕に力を込めて、フェイトの髪に顔を埋める。

なのははフェイトの家に着くまでの短い時間、片時も離れたくない、と無意識のうちに両腕に力を込め続けた。
ちょっと苦しい、とは思ったけれど、背中の感触がもったいなくて、ガマンしていたフェイトだけれど。


ガタッ!


自転車がとある段差を越えた瞬間。


「ぐぇっ!」


フェイトの口から、およそ似つかわしくない呻き声が漏れたかと思うと、自転車の速度がガクン、と落ちた。


「ちょっ!な、なのはっ!!ギブ、ギブッ!!」


そう、あの段差を越えた衝撃で、腕の位置が微妙にずれて、なのはの両腕がフェイトの首を見事に決めていたのだ。

パシッ、パシッ!

フェイトが片手をハンドルから離してなのはの腕をタップしても、フェイトの髪に顔を埋めてご満悦のなのははしばらく気づかない。

パシッ、パシ……ッ、パ……シ…………

タップする力が弱くなった頃、ようやくなのはが事態に気づく。


「え?フェイトちゃん??ど、どう……」



カクン。



落ちた。



フェイトはキレイに落ちた。





「にゃあぁぁぁぁーーーー」


そして、そのまま自転車は道路わきの植え込みに突っ込んでいったのだった・・・。




◇ ◇ ◇ ◇


「そっちかい!!」


はやてはアリサの話を聞いて、突っ込まずにはいられなかった。


「大変だったね。大丈夫、ふたりとも?」


そんな馬鹿馬鹿しい事の成り行きを聞いても、二人の心配をしてあげるすずかはとても良く出来た人物だ。


「植え込みがいいクッションになってカスリ傷だけで済んだみたいよ」
「大変だったのは、どっちか言うとフェイトちゃんだけちゃう?にしても、なのはちゃんが絞め技の使い手やったとは」


はやてが意外そうになのはに視線を向けると、顔を真っ赤にして反論する。


「偶然だもん!そんなの知らないよ……」
「そうだよ!ただ、なのはは、あの、落ちないように私にしっかりと抱き・・・抱きついてただけで」


なのはのフォローをしようとして、途中で恥ずかしくなってしまい声が小さくなるフェイト。


「あー、はいはい。なのはちゃんが落ちないようにしようとした結果、フェイトちゃんを落としたんやね」
もう、どうでもええわ。


思っていたのとは話の方向が違ってしまったため、俄然興味を失ってテンションが下がったはやてに、最後の一撃を放ったのは意外にも悠然と微笑んでいたすずかだった。


「“オチ”だけに、“落ち”てみました、なんて」


シーーーーーーーーーン。


「すずか……アンタ……」


結局、この件がきっかけとなり、二人が上手くいくことになる    


……わけがない。


お後がよろしいようで。


   完


やっぱり色んな意味でオチは大事(笑)。






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