※ヴィヴィオ→はやて の呼称はサウンドステージでこう呼んでいた、という情報を昔、小耳に挟んだので使用しましたが、私自身はそれを実際に聴いていないので、ガセかもしれません……。

一部、micoさんの『リリヴィヴィ』の設定をパクリました!サーセン!!(笑)




   『 はやてさんの憂鬱 』






とある休日昼下がり。

高町家では母と娘が片やまったりと、片や落ち着かない様子で待ち人を待っていた。


「ねぇ、まだかな??ちょっと遅くないかな??」
「さっき連絡あったばかりだよ?もうすぐだから、座って待ってたら?」
「だって、もし車で事故とか……」


苦笑で答えるなのはに、ヴィヴィオが不安を訴えようとしたまさにその時。
玄関先に人の気配、そしてドアが開かれた音がリビングに聞こえてきた。


「ただいま〜」


その馴染みの声に頬が緩むのを抑えきれずに、軽い足取りでなのはが玄関に顔を出すと、既に駆け足で迎えに出ていたヴィヴィオが待ち人に抱きついている。
少々納得がいかない複雑な表情でいるフェイトに、おかえりなさい、と声をかけて。

その隣でヴィヴィオを抱えて微苦笑している親友のはやてにも挨拶をした。


「いらっしゃい、はやてちゃん。久しぶりだね」
「うん。久しぶり〜。なのはちゃんも元気そうで何よりや」
「ほら、ヴィヴィオ。フェイトちゃんにもちゃんとおかえりって言ったの?」


なのはの言葉に、はやてに抱きついていたヴィヴィオは顔だけ振り向かせて。


「もちろん、最初にフェイトママにご挨拶したよ!おかえりなさいって」
「…………それはもう、風のようにね…………」
「にゃははは」


胸を張るヴィヴィオとは対照的に肩を落とすフェイトの手から大きめのバッグを受取り、その空いた手を引くと、ようやくフェイトの顔にも笑顔が戻る。


「はやてちゃんもどうぞあがって」
「ほな、お邪魔します。……ヴィヴィオ、降りて」
流石にもう、重ぅて抱っこのままじゃ歩かれへん。


はやてはヴィヴィオを下に降ろして、ふぅ、と大きく息を吐く。
すると、ヴィヴィオは頬をいっぱいに膨らませてはやての服の腕を摘まみ前後に揺すった。


「重くないですっ!成長分だもん!」
「はいはい」
「女の子に重いとかゆったらダメなんだよっ」
「あー、はいはい」


そんな大人と子供のやり取りを振り返りながら、その親であり親友でもあるなのはとフェイトは、顔を見合わせてクスリと笑った。





出張を終え帰宅する前に事務処理のため本局に寄ったフェイトとばったり出くわし、家に招かれたはやての目の前には。

上品なカップ&ソーサーに注がれたとても芳醇なアップルティー。
そして、膝の上には何故か、はやてに背をもたれてちょこん、と腰かけているヴィヴィオ。


「……あんな、ヴィヴィオさん。もう“ちょこん”なんて表現じゃ追っつかんくらいの存在感やから」
「っっ?!ぶたいちょーまた遠まわしに重いってゆった!!」
「お、気づいた?賢い、賢い」
「あ、じゃあ、ヴィヴィオ。フェイトママのところに……」


対面式のソファーで、はやて、ヴィヴィオの向かい側になのはと共に並んでいたフェイトが、会話に割り込んで自分の膝をポンポン、と叩いてみせる。

ところが。

ヴィヴィオははやてとの会話に夢中で、その事にまったく気づいておらず。
フェイトは無言で膝を叩いていた両手を、静かにその場に揃えたのだった。


「まぁまぁ、フェイトちゃんは後で私を抱っこするとして」
「……へ?あ、なのはっ、あの……」


なのはの言葉を聞き咎めて頬をピンク色に染めたのはフェイトだけで、口にした本人はどこ吹く風。
フェイトは消化不良気味にまだ口を小さく開閉している。


「仕方ないよね。ヴィヴィオははやてちゃんが大好きだもんねー」
「ねー」
「ははは。ほんま、モテすぎて大変やわぁ」


ヴィヴィオが仕方なさ気だけれど、膝から降りて隣へと腰を落ち着かせたので、はやてはようやくアップルティーへと手を伸ばす。


「え?!なのはママ、フェイトママ!ぶたいちょーってモテるの?!!」
「……ヴィヴィオ。何気に失礼な言い草やで、それは」


はやての軽口を真に受けたヴィヴィオに、答えに窮するような質問をぶつけられ、なのはもフェイトも、困り顔。


「えーっと、モテないってことはないと思うよ?」
「うんうん。でも、はやてちゃん自分のそういう話、茶化して誤魔化すからなぁ」
私たちの事は根掘り葉掘り聞こうとするくせにね。


はやては、誰に対しても当たりが柔らかく、仕事に対する意識も高く、上司部下共に信頼も厚い。
周囲の人間から尊敬や憧れの対象になっているのは事実だ。

しかし、なのは達と違い、現場最前線ではなく指揮統括をメインとする職務上、恋愛対象として、やや手が届きにくい、遠い存在に見られてしまうことが多かった。


「誤魔化すもなにも。周りは妙齢のオジサマ方ばっかりや。潤いなんかあらへん、あらへん」
「ほら、すぐそうやって」
「やから、誤魔化してなんかないって……ん?」


黙って話を聞いていたヴィヴィオにツンツン、と袖を引っ張られ、はやては視線を隣へと向ける。


「じゃあ、わたしが一番だよ!」
「何がや?」
「わたしが一番、ぶたいちょーのこと愛してるんだからね!」


ブーーーッ!

ちょうど口に含んだばかりのアップルティーを、はやては盛大に噴き出した。

それから無言で、なのはから受取った布巾でテーブルを掃除して。


「……なのはちゃん?フェイトちゃん??」


ヴィヴィオを指さしながら、低い声で両親へと呼びかける。
言葉の先は言わずとも、その非難の眼差しは『子供に何教えとんねん!』と如実に語っていた。

ふるふるふるふる。

なのはもフェイトも首を横に振って、潔白を主張する。
一応、親としての自覚はあるつもりだ。

ヴィヴィオの前では、オトナの情事……もとい、事情は自重している。


「わたし、本気だよ」
「ヴィ、ヴィヴィオ?」
「身長だってすぐ追い抜いてみせるから!」
「ちょお待ちって。……ほら、そこ。笑ってないで止めてや」


だんだん暴走するヴィヴィオに、はやては降参気味になのは達に助けを求めるが、手を貸してくれる様子はなく。


「んー、まぁ、娘の初恋を暖かく見守ってあげようかなって」
「はやても流石にまだ手は出さないだろうし」


勝手なことを……。
応援は諦めて、ヴィヴィオを落ち着かせるために説得を試みる。


「ほら、ヴィヴィオ、まだ子供やない」
「子供だからってバカにしないで。なのはママやフェイトママも、今のわたしと同じくらいで出逢ったんだよ?」


確かに今思えば、あの出逢いのとき既に二人はお互い惹かれてた。
が、当時、好きだの愛してるだの、考えたこともなかった。

そんな自分たちのことを引き合いに出され、流石のなのはもフェイトも苦笑い。


「でも、あたしとヴィヴィオじゃ歳がえらい離れとるし」
「……ぶたいちょー、わかってない」
「なにを」




「愛にっ!愛に歳の差なんてカンケーないって!!」




「…………」


はやては思わず頭を抱え、フェイトは自分の娘から飛び出した発言に驚きを隠せずにいる。

と、そこへ。


「あ!アレだ」
「なのは?」
「今ので思い出したの。こないだヴィヴィオと一緒にみたドラマだ」


さっきからの一連したヴィヴィオのませた発言はどうやらそのドラマによるところが大きいらしい。
良く言えば吸収力が高く、悪く言えば影響されやすいのが子供というものだ。


「なるほど……そうか、そうやな」


抱えていた頭をバッとあげ、真剣な面持ちでヴィヴィオに向き直る。


「ヴィヴィオ、あたしが間違っとったわ」


ヴィヴィオの手を引いてソファーから立たせると、はやてはその後ろに回り、両肩に手を置いた。


「なのはちゃん、ヴィヴィオの部屋、ちょっとお邪魔するで」
「……え?い、いいけど……」
「はやて、何を」


戸惑う両親を置き去りに、はやてはヴィヴィオを自分の部屋へと肩を押して促す。


「人を愛することに、年齢だの何だの気にしたらあかん。ヴィヴィオの言う通りや」
「ぶたいちょー……」
「無粋なこと言うてすまんかったな」


頭上から降ってくる大好きな人の優しい声が、ヴィヴィオの鼓動を早くする。
子供だってこの胸の高鳴りをウソだなんて言ってほしくない。

部屋の前に立ち止まってドアノブに手をかけた。


「愛に歳の差は関係ない」


ガチャ。


「でもな、ヴィヴィオ」


ポンッ!


「きゃっ!」


バタンッッッ!!


「法律には関係あんねんっ!!」
さすがにミッドかて児童なんちゃら法に引っかかるわ!


はやてはドアを開けると、後ろから肩に置いていた手で背中を軽く押してヴィヴィオだけ部屋の中へいれる。
そして、素早く扉を閉めて小さく呪文を呟いた。

ガチャガチャ!ドンドンドン!


「すまんな、簡単には開けられんようさせてもろたで」


はやての言葉を証明して、ヴィヴィオの部屋のドアはいつもと違う青白い光を発色している。


「ずるいっ!わたしのこと、ダマしたーーっ!もてあそんだーーっ!!」
「……もうちょい観るドラマ、選んだ方がええな……」


ふぅ、と大きく息を吐きながらリビングへと戻ってくると、遠巻きに様子を見ていたなのはとフェイトもソファーへ着席しなおした。


「ごめんね、はやてちゃん。久しぶりだからヴィヴィオ、はしゃいじゃって」
「ええよー、あの子に驚かされるのも密かな楽しみやし」
「……あ、静かになった」


フェイトの一言に、三人の視線は先ほどまで騒がしかった部屋のドアへと注がれる。


「ようやっと諦めたか」
「それはどうかな。多分、早速解錠の術式を考え始めたんだと思うよ」
「……そりゃ、前向きやね」


少し楽しそうに告げるフェイトに、やれやれ、とはやては天井を仰いで。


「わからんなー。一体、どこをそんなに気に入られたんやろか」
「そうだねぇ……ヴィヴィオ自身もはっきりとわかってないみたいだけど」


なのはは隣のフェイトをとても愛しげにみやる。
すると、フェイトも同じ眼差しでなのはのことを見ていた。
なのは達は何となく気づいていたのだ。


  なぜ、はやてなのか。


なのは、フェイト、はやての三人は管理局の中でも資質、能力共に突出した存在で。
それ故、周囲の過剰な期待や与えられた重責に応えたいと思う気持ちから、ある種、孤高といえた。

それでも今現在、なのはにはフェイトが、フェイトにはなのはがいる。

しかし、はやてには。

家族として心を許している守護騎士の皆でさえ、はやてにとっては『守るべき』大切な人。
自分の弱さを曝け出して寄りかかれる存在ではない。

ヴィヴィオは無意識にそれを感じとって……。


「でも、私もフェイトちゃんも、はやてちゃんなら安心だと思ってるよ」
「うん。お似合いじゃないかな」
「……こ、怖いこと笑顔で言わんといて……」


親として、もちろん大切な娘にはちゃんとした相手を選んでほしい。

そして、何もかも一人で抱え込んで前に進もうとする大切な親友には、ただひたすら甘えられるような相手が出来てほしい。
そうでないと、いつか倒れてしまいそうで。

確かに、まだヴィヴィオは子供だけれど。
聖王として生み出された“特殊”な存在である彼女なら、はやてと対等な立場で寄り添っていける気がする。


なのはは思う。

運命の相手となら、次元だって越えて出逢うのだから。
年齢なんて瑣末なことだ、と  







五年後    




「……ん」


はやては意識が浮上すると同時に、自分が今どこにいるのかを思い出す。

あかん……寝てしもたか……。

司令室のデスクに突っ伏して、仕事の途中で寝てしまったのだ。
もちろん、正規の就業時間はとっくに過ぎていて、夜勤の人間以外は、そう残っている時間ではない。


「あ、部隊長、起きました?」
「ぅわっ!……なんや、ヴィヴィオ。まだおったん?」


リインを始め、部下には上がるよう言っておいたはずなのに。
部屋には自分しかいないと思い込んでいたはやては、いきなりかけられた声に肩をビクッと揺らして、声の主へと視線をやった。

ヴィヴィオは同じ海上警備部所属でいわゆるはやての直属の部下にあたり、補佐的な仕事を任せている。

目ざましに大きく伸びをしようとして、はやてはふと、自分の肩に制服のジャケットが掛けられていたことに気づく。
……ヴィヴィオのものだ。

なるほど、だからあんな夢を見たのか。

はやては合点がいく。
ヴィヴィオが子供の頃になのは達の家へ遊びに行った時の騒がしい出来ごとを夢見たのは、ヴィヴィオの香りに包まれて寝ていたせいだろう。


「そうですよー。まだいたんですよー。……急ぎの仕事はないのに」
「あははは……」


ヴィヴィオは不満顔で読んでいた本をパタリと閉じた。
最後に付け足した一言は、この時間まで残業をしてやる仕事ではないのに、そうしていた上司への非難にあたる。

はやてもそれについては弁解せずに、苦笑でヴィヴィオのジャケットを返しながら、自分もソファーへと凭れこんだ。


「それ、掛けてくれたんやね。ありがとうな」
「いえ、もうお礼は頂きましたから」
「……っっ?!」


人差し指をふっくらした唇に当てて、ニッコリ笑うヴィヴィオに、はやては片手で口を覆い仰け反る。


「あああああんた、ま…さか」
「ウソです。ほっぺです。それくらいだったら良いよね、お礼」
「…あー…まぁ……」


口ではなくてホッとしたのが半分、しかし、残り半分は残念に思う自分がいて、慌てて首を左右に振って頭から追い出した。


「まったく、大人をからかうもんやないで」
「昔っから言ってますけど。わたし、ずっと本気です、部隊長」
「……」


しまった、マズい話題を振った、と気づいたはやては、視線を斜めに逸らして話を変える。


「にしても、いい加減『部隊長』って呼ぶの、どうなん?」


流石にヴィヴィオとて仕事中にそんな呼び方はしない。
きちんと他の部下と同じように名字に役職を付けて呼んでいる。
『部隊長』と呼ぶのはプライベートのときだけだ。


「でも、勤務時間外まで『八神司令』ってイヤだし、八神さんっていうのも他人行儀な気がして」


ヴィヴィオ曰く、『部隊長』は、小さい頃から呼び慣れているし、もう、はやての事をそう呼ぶ人がいない今、自分だけの呼び名という特別感があっていいらしい。


「ふ〜ん……他人行儀っていうなら、仕事終わったら昔みたいに敬語なんか使わんでええのに」
「それは、まぁ、ケジメというか」


管理局に入局してから、ヴィヴィオは全ての目上の人に対してきちんと敬語で話をするように気を付けている。
両親に対しては、勤務以外では昔のままだけれど。


「……はやてさん」
「!!!」


何の前触れもなく突然そう呼ばれて。

はやての胸の中で嬉しさと戸惑いと、色々な感情が混ざり合い、ただの返事すらすぐには返せない。
すると、ヴィヴィオは真面目な顔から一変して、クスクスと笑い始めた。


「ほら、すごく困った顔になった。想像通りです」
「ヴィ、ヴィヴィオ……」
「わたし、オトナは何かとタイヘンだって分かってるつもりです。……だから、まだいいです。でも」


そして、はやての手をとってソファーから一緒に立ち上がる。
もう身長ははやてを追い越して、やや見上げるようにしないと、真っ直ぐ視線が合わない。


「いつかちゃんと、はやてさんって呼んで、敬語なしでお話して……唇にキス、しますからね!」
「…………」


いつものように軽くあしらうことすら出来ずに立ち尽くすはやてに、ほらほら、と帰り支度を急かす。

自分の荷物を取りに行くため、先に司令室を後にしたヴィヴィオの背中を見送って。


「ふぁ〜〜……あかん……」


大きな溜息と共に、再びソファーへズルズルとへたり込む。

あの恐れを知らない純粋な瞳が脳裏に蘇る。


「だから、子供は怖いんや」


しかし、本当は。
それは決して子供だからではなく、ヴィヴィオはきっといくつになっても、あの瞳のままだろう、とはやては思う。

それに比べて、言い訳や逃げ方が随分上手くなってしまった自分。


「……もう、覚悟決めんとなぁー」


やはり、まずは、両親への挨拶からだろうか、と考えて、更に頭が痛くなるはやてだった    



  完


大人で余裕があるように見せかけて、本当は乙女な部隊長。
押せ押せなように見せかけて、実は不安いっぱいな聖王さま。

そんな二人が大好きだ!!!(笑)


……で、でもまだvivid読んでないんだけど、何かヴィヴィオが浮気してるっぽい?(笑)



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