「美穂子って本当にファストフードとか行かないんだ?」
「ええ……だから久さんが教えてくれなかったら、注文も自信なくて」


久さんはさっきの私の言葉を社交辞令のように思っていたらしく、ある意味感心の眼差しを向けられた。


「今どきおかしいですよね……久さんは良く来るんですか?」
「別におかしかないわよ。そうね〜、どっか出かけた時くらいかしら。家や学校の近辺にはお店がないのよね。ほら、ウチ田舎だから」


いただきます、と挨拶をしてから、久さんがハンバーガーにかぶりつく。
私もそれに倣ってハンバーガーの包みを解いた。

……私、食べるの遅いから、迷惑かけないよう気をつけなくちゃ。

しばらくの間、遅れないよう食事を摂る事に集中していたら、久さんから話しかけられる。


「ねぇねぇ。あなた……プロは目指さないの?」
他に勉強したいって言ってたけど。


あっ!いけない……。
私ったら食べるのに一生懸命で、久さんのこと頭からすっかり抜けていた。


「……は、はい!麻雀は大好きで、もちろん、これからもずっと打ち続けるつもりだけれど、プロの世界は私の目指したい場所じゃないんです。なので、大学の推薦の話もお断りしました」


プロ雀士になることを夢見た時期もあったけど。
でも、プロは勝つことに意味を見出す世界。

私も勝負に拘ってないわけじゃない。
負けるのは嫌だし、勝ちたいと思う。

しかし、それよりもっと、色々な人と対局したいという思いの方が強くて。

    今、目の前に座るこの人との初めての対局も私にとって、衝撃的なものだった。


「プロの真剣勝負の場に、そういうのは失礼ですから」
「ふ〜ん……」
「久さんこそ、目標はプロでしょう?」
プロにお知り合いもいらっしゃいますし。


私より早くハンバーガーを食べ終えた久さんは、頬杖をついていない方の指でドリンクのストローを弄びながら、目を細める。


「ブブー、はっずれ!私もプロになる予定はないわ、今のところ」
「え?!な、なんで」
「私みたいなタイプはプロ向きじゃないもの。あなたやウチの和なんかピッタリだと思うんだけどなぁ」
「そう……ですか……?」


久さんはポテトを一つ摘まんで、それで私を指し示す。
ただ、私にしてみれば、"向いてない"と明言をする彼女の方が余程適性があるように思えて、首を傾げるばかり。


「あははは。ま、先の事はわかんないしね。じゃ、美穂子は大学で何を専攻する予定なの?」


ポテトを齧りながら、言いたくなかったら構わないから、と付け足されて。

久さんは人見知りせず飛び込んで来るけれど、決して無神経なことはしない。
相手がどこまで許すのか、こうして距離を測る。


「福祉系を。……本当は保育士になりたかったんだけど」
「保母さん?!うっわー、ピッタリ!まんまイメージって感じだわ。どうしてならないの?」


しまった。
余計なひと言を言ってしまった。
そんな事を言えば、こう聞いてくるのは当然だろうに。

しかし、私は上手にかわせるほど器用ではなく。


「あの……。あの、何事も『一番ではなく二番目を選べ』って言うでしょう?」
「んー、あれか。一番好きな人じゃなくて二番目に好きな人と結婚しろ、とかのヤツ?」
「ええ。お仕事も一番の趣味を仕事にしてしまうと、純粋に好きではいられない、っていう考え方ありますよね。私もそう思うんです」
「…………」
「子供と接することが楽しいだけじゃなくなっちゃうのって、悲しいなぁって」
「なるほどねぇ。色々あんのね」


そうドリンクを含む久さんの表情からは、私の話にどんな感想を持ったのか全く読み取れない。

いや、本当にその言葉以上の感想はないのかもしれない。
つまらない話をしてしまったことを後悔した。


「そういえば、予選の時優希にくれたお弁当、手作りでしょ?」
「え?……ああ、そうです。ウチの寮、自炊出来るから」
「料理が出来て、子供好きで、優しくて……。美穂子は良いお嫁さんになるわね」
「!!!」


お、お嫁さん??!!

まさか久さんの口からその声でそんな言葉を聞くとは思ってなくて、一気に体温が急上昇。
多分、私の顔は他の誰から見ても真っ赤に染まっているに違いない。

もちろん、その言葉に何の他意もないのはわかってる。
けど、こ、心の準備というものが……。

そして、あまりの動揺に私は。


「ひしゃしゃ……久しゃんっ……じゃなくって!ご、ごめんなさいっ」


…………噛んだ。

あー、もうっ!恥ずかしいっ。
手で口元を覆い隠し、ちょっとだけ目元に涙が滲む。

彼女はそんな私を一瞬びっくりした顔で見た後、堪え切れずに噴き出した。


「プッ!……ククッ。あなたって……可愛いわね〜……ククク」
「……そ、そんなに笑わないで」
「別に"さん"なんか付けなくていいのに。それに、言葉づかいだって前から気にはなってたのよ」
同い年なんだから、敬語使わないで欲しいんだけど。


ね?なんて、微笑まれても急に変えられるかどうか……。


「ゆみだって完全に私の事呼び捨てだし」
「ゆみ?」
「ほら、敦賀の。加治木ゆみ。同じくらいの付き合いなんだから、美穂子ももっと気軽にしてくれると嬉しいなぁ」


あ、加治木さん。
部長さんではなかったけど、とてもしっかりしていて麻雀の読みも上手かった人だ。
そっか、久さんと仲良しなのね。


「それにさ、今思ったんだけど、国立ってもしかして私と美穂子、同じ大学志望じゃない?私は県内の大学に行くつもり」
「え?わ、私も出来れば近いところ……県内です」
「あ、やっぱり!じゃあ、無事合格したら面白い事になるかもよ?」
「面白い事……??」


それから久さんが話した内容は、それを聞いた私もすごくドキドキするもので。


「うん。二人で麻雀部に入って、国立を馬鹿にしてる強豪たちにひと泡吹かせるのよ。インカレでちょっとした台風の目になるの」
「インカレ……インターカレッジ?」
「そう!私とあなたなら出来ると思わない?」
「…………団体戦で?」
「もち。メンバーがいなければ集めればいい。私、そーゆーの経験済みだし」


私と久さんが団体戦……。

同じチーム……味方同士で戦える!!


「……ごい!すごいですっ!」
「高校と違って大学だったらチャンスは四回もあるしね。四年あれば何か形に残せると思うの」


二人で何かを成し遂げられたら……それはとても素敵な事。
まさかそんな機会が、しかも、彼女から提案されるなんて。

私は高鳴る胸を鎮めるべく両手で胸を抑える。


「共感してもらえたようね。そしたら、まず修正!」
「はい?」
「"久さん"じゃなくて"久"」
「……ひ、久」
「オーケー。そんでもって敬語禁止」
「は、はい」
「"はい"〜〜??」
「あ……。えっと、うん」


躊躇いがちに肯くと、久さん……じゃない、久は満足気に人差し指と親指で○を作ってみせる。


「でも、まずは合格……しないと」
「……だから、さっきから嫌な事言うわね、美穂子は」
「ご、ごめんね」


私の言葉に、久はとても嬉しそうに瞳を細めた。




また一歩近づいた私とあなたとの距離。

きっともう『ともだち』というカテゴリーに分類される関係。



あとほんの少し。
ほんの少しだけ近づけたらいい。

それ以上を望むことはないの。
だって。



今までも、これからも    あなたの事が“一番”好き。

そして、私は。

今までも、これからも    “一番”は選ばない。



  完


ちょっとずつ、ちょっとずつ仲良しになってます(笑)。が、キャプテン的にはここまで、っていう。部長待ちって感じ?(笑)
この先もいつか機会があれば書きたいと思ってます。……いつか、ね。
ってゆうか、設定が捏造バンザイ!!過ぎて申し訳なくなりますなぁ…。




  




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